気候変動と脳科学

子供の記録力はすさまじい。

一度だけ通った道、景色、出会った人物、聞いた会話などを覚えていて、時間が経って口にすることがある。

娘の絵によく登場する虹の絵は、気づいたら七色の順番が適格に描かれている。

何度見たわけでもないのに、絵本やテレビを見て記憶しているのか。

一度だけ読んだ物語を、その通り再現することもある。

どういう理屈で、どういう思考回路で、記憶しているのだろう。

子供と遊んでいると、ふと自分の4歳の頃の記憶がよみがえることもある。

人の記録ってなんなのだろう。

記憶、感情、意識ってなんなのだろう。

先日NHKBSドキュメンタリーで、興味深いテーマが放送された。

「脳にだまされるな」~気候(環境)危機とどう向き合う~¹⁾である。

長期にわたる気候変動問題が進行しないことについて、脳のメカニズムからその理由を分析している。

まず思考に影響を与えているのが「認知バイアス」。

先行きが分からないことやストレスが生じることに対して思考を止める。

気候変動問題は対策をしても結果が出るのが数十年先であり、CO2の排出を抑えるために今の生活の中に我慢が必要だという印象を持つ人はストレスを感じているだろう。そこで思考を止めてしまうのか。

「楽観バイアス」。ポジティブなことに対しては人よりうまくいくと考え、ネガティブなことに関しては自分の被害を低く見積もる。番組によると、ロンドン大学で行われた調査では、「将来お金持ちと結婚する可能性が人より高い」「才能ある子どもを持つ」などの質問につては多くの人が他の人よりうまくいくと答えたのに対し、「人よりガンになる可能性が高い」「訴訟に巻き込まれる可能性がある」などの質問については多くの人は自分は関係ないと答えた。これについてはコロナ禍の政治家の対応を見ても、同じ傾向があると指摘した。

「確証バイアス」。決めたことを曲げようとせず、他人の意見を聞こうとしない姿勢。たとえ間違っている認識でも、考えを変えることを困難にしてしまう。これは近年のソーシャルメディアの浸透によって増幅しているという。自分の周りに同意する人がいない少数派でも、オンラインであれば簡単に仲間を見つけ、つながることができる。同じ考えを持つ仲間と集うことで考えはさらに頑なになり、他の意見には聞く耳を持たなくなる。これは気候変動に対して懐疑的な意見を持つ人たちとの対立にも、よく見られる光景であると感じる。科学的な根拠のないコメントであっても心理的に与える影響は大きいことを考えると無視できない現象である。

もうひとつ、注目していたのは「傍観者効果」だ。一人より複数の方が、誰かが動くのではないかと探りを入れて、行動するまで時間がかかるという効果だ。

気候変動問題は、複数の国と地域、人が関わることで複雑さを増し、対策については誰かがやってくれるという意識が働いてしまう傾向がある。

私たちの脳は気候変動を正しく認識できているのか。

脳科学の観点から解決の糸口を見出すことができるのか。

人の認知の偏りを解明することで新たな対応策を導くことができるのか。

脳科学という分野にもう少し寄り添ってみたい。

参考

1.「脳にだまされるな 気候危機とどう向き合う」 – BS世界のドキュメンタリー – NHK(原題:Climate Change : The Brain Paradox フランス2021)